逆流性食道炎・胃食道逆流症(GERD)
胸やけ・呑酸・のどの違和感の原因と、最新の治療について
📅 2025年更新 監修:前川内科 院長 前川 直志
胃食道逆流症(GERD)とはGastroesophageal Reflux Disease
胃の中の胃酸や胃の内容物が食道に逆流し、食道粘膜がただれたり(びらん)、胸やけや口の中が酸っぱいなどの不快な症状が生じる状態を胃食道逆流症(GERD)といいます。
GERDのうち、内視鏡で食道粘膜にただれ(びらん)が確認できるものを逆流性食道炎(びらん性GERD)、ただれがなくても症状がある場合を非びらん性胃食道逆流症(NERD)と呼びます。
日本では成人の10〜20%がGERDと推定されており、食生活の欧米化や高齢化を背景に近年増加傾向にあります。のどの違和感・慢性の咳・声がれなど、一見胃とは関係のなさそうな症状もGERDが原因のことがあります(食道外症状)。
ℹ GERDの定義(日本消化器病学会ガイドライン2021)
「胃内容物が食道内に逆流することによって食道に障害が発症したり、様々な不快な症状が出現している状態」と定義されています。症状の有無だけでなく、内視鏡での粘膜所見も診断の重要な要素です。
主な症状Symptoms
GERDの症状は食道症状と食道外症状に分けられます。複数の症状が重なることも多く、症状の程度と内視鏡所見が必ずしも一致しない点が特徴です。
💥 典型的な食道症状
🔥胸やけ(ハートバーン) 食後や就寝中に胸の奥がじりじり・ひりひりする。最も多い自覚症状。
🤮呑酸(どんさん) 口の中に酸っぱい・苦いものが上がってくる感覚。
🍞つかえ感・飲み込みにくさ 食べ物が胸でつかえる感じ。狭窄が起きている場合に出やすい。
そのほか、ゲップが増える・胃もたれ・腹部膨満感なども多くみられます。
💬 食道外症状(のど・気道の症状)
🦷のどの違和感・ひりつき感 逆流した胃酸が咽頭・喉頭を刺激することが原因。
💨慢性の咳・声がれ 咳払いが続く、声が出にくい。耳鼻科で異常がない場合に疑われます。
❤️非心臓性胸痛 心臓由来ではない胸の痛みのうち、GERDが原因のことがあります。
💤睡眠障害・夜間症状 就寝中の逆流で目が覚める、睡眠が浅くなるなど。
⚠ こんな症状があれば早めにご相談ください
体重減少・黒い便(タール便)・嘔吐・飲み込みが急に困難になったなどの症状は、より重篤な疾患のサインのことがあります。早めの受診・内視鏡検査をおすすめします。
原因とリスク因子Causes & Risk Factors
GERDの主な原因は、食道と胃のつなぎ目にある下部食道括約筋(LES)の機能低下です。通常は食べ物が通るときだけ開くこの筋肉が緩むことで、胃酸が食道に逆流しやすくなります。
📌 主な原因・リスク因子
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食道裂孔ヘルニア:胃と食道のつなぎ目が横隔膜より上にはみ出した状態。LESの機能が低下し、逆流が起きやすくなります。GERDの重要な素因です。
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肥満・過体重:腹圧が上昇するため、胃酸が逆流しやすくなります。
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食生活の乱れ:高脂肪食・過食・食後すぐに横になる習慣など。
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飲酒・喫煙:LESを緩めたり、胃酸分泌を増加させます。
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加齢:LESの機能は年齢とともに低下する傾向があります。
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腹圧上昇の習慣:前かがみ姿勢、ベルトの締めすぎ、重いものを持つなど。
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ピロリ菌除菌後:除菌により胃酸分泌が回復し、GERDが顕在化することがあります。🔗
ピロリ菌について
内視鏡検査と重症度分類(LA分類)Endoscopy & LA Classification
GERDの診断・重症度判定・合併症の確認には胃カメラ(上部消化管内視鏡)検査が重要です。症状の程度と内視鏡所見は必ずしも一致しないため、症状が軽くても内視鏡での確認が推奨されます。
内視鏡では、食道粘膜のただれ(びらん)の範囲・程度をロサンゼルス分類(LA分類)で評価します。
| LA分類 |
食道粘膜所見の目安 |
治療の方向性 |
| Grade N |
ただれなし(非びらん性:NERD) |
PPI/P-CABによる症状コントロール |
| Grade A |
5mm未満の小さなびらん |
PPI/P-CABの標準用量 |
| Grade B |
5mm以上のびらんが複数 |
PPI/P-CABの標準用量、定期的フォロー |
| Grade C |
粘膜ひだ上位の75%未満に及ぶ広範なびらん |
P-CABが特に有効(重症例)、長期管理 |
| Grade D |
粘膜ひだ上位の75%以上に及ぶ最重症のびらん |
P-CABを中心とした積極的治療、手術適応の検討も |
粘膜所見ただれなし(非びらん性:NERD) 治療の方向性PPI/P-CABによる症状コントロール
粘膜所見5mm未満の小さなびらん 治療の方向性PPI/P-CABの標準用量
粘膜所見5mm以上のびらんが複数 治療の方向性PPI/P-CABの標準用量、定期的フォロー
粘膜所見粘膜ひだ上位の75%未満に及ぶ広範なびらん 治療の方向性P-CABが特に有効(重症例)、長期管理
粘膜所見粘膜ひだ上位の75%以上に及ぶ最重症のびらん 治療の方向性P-CABを中心とした積極的治療、手術適応の検討も
🔬 当院の内視鏡検査について
前川内科では日本消化器内視鏡学会専門医による胃カメラ(上部消化管内視鏡)を行っています。胸やけや呑酸など気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
重症化・合併症についてComplications
GERDを放置・軽視すると、以下のような合併症が生じる可能性があります。
⚠
出血・貧血:食道粘膜のただれが悪化すると出血し、慢性的な貧血を引き起こすことがあります。
⚠
食道狭窄:慢性的な炎症により食道が線維化・狭窄し、食べ物が通りにくくなります。
⚠
バレット食道(Barrett食道):食道下部の正常な粘膜が胃の粘膜に似た組織に置き換わった状態。逆流性食道炎の約1%に合併するとされ、食道腺癌(食道がん)の前癌病変となり得るため、定期的な内視鏡によるフォローが必要です。
⚠
食道腺癌:バレット食道から発展するリスクがあります。長期にわたる重症GERDはリスク因子です。
🚨 バレット食道は定期内視鏡を
バレット食道と診断された場合、症状がなくても定期的に内視鏡でフォローすることが推奨されています。異型上皮(dysplasia)の有無を確認し、早期発見・早期対処につなげます。
治療Treatment
GERDの治療は①生活習慣の改善と②薬物療法が両輪です。重症例では手術が選択されることもあります。
1
生活習慣の改善(全症例に重要) 食事・体重・姿勢・喫煙などの見直しを行います。薬物療法と並行して継続することが再発予防にも重要です。
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2
薬物療法(PPI または P-CAB を中心に) 胃酸分泌を強力に抑える薬が第一選択です。重症度・症状に応じて薬剤を選択します。
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3
効果不十分な場合の追加対応 消化管運動改善薬の追加・投与量の調整、または外科的治療(腹腔鏡下噴門形成術)を検討します。
🏠 生活習慣の改善ポイント
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食べすぎない・腹八分目:一度に大量に食べると胃内圧が上昇し逆流しやすくなります。
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食後30分〜2時間は横にならない:食後すぐの臥位は逆流を促します。食後は座位または立位を保ちましょう。
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就寝の2〜3時間前には食事を終える:就寝前の食事は夜間逆流の大きな原因です。
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上半身を少し高くして就寝(頭側挙上):枕を高くする、または上体を5〜10cm程度挙上すると夜間逆流を軽減できます。左を向いて寝ることも有効です。
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腹圧をかけない:前かがみの姿勢・きついベルト・ガードル・重いものを持つ動作などは避けます。
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肥満の解消:BMIを適正範囲に保つことは逆流予防に有効です。食事改善と適度な運動を心がけましょう。肥満・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病はGERDとも密接に関わります。
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禁煙・節酒:タバコと過度のアルコールは下部食道括約筋を緩め、胃酸分泌を増加させます。治療中は特に避けてください。
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逆流を起こしやすい食品を控える:高脂肪食・揚げ物・チョコレート・コーヒー・炭酸飲料・柑橘類・香辛料・甘いものなどは逆流を起こしやすくします。
💊 薬物療法
GERDの薬物療法の中心は胃酸分泌を抑える薬(酸分泌抑制薬)です。2021年改訂のガイドラインでは、PPIに加えて、より強力な新しい薬剤P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)が推奨薬として位置づけられています。
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PPI(プロトンポンプ阻害薬):オメプラゾール・ランソプラゾール・ラベプラゾール・エソメプラゾールなど。GERDの標準的な第一選択薬で、長年の使用実績があります。
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P-CAB(ボノプラザン):日本で開発された新しい酸分泌抑制薬(タケキャブ®)。投与初日から強い酸分泌抑制効果が得られ、特に重症逆流性食道炎(LA分類 Grade C・D)やPPI抵抗性症例に有効です。食事の影響を受けず服薬タイミングの自由度が高い点も特徴です。
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消化管運動改善薬:胃や食道の動きを助け、逆流を減らします。酸分泌抑制薬に追加する形で使用することがあります。
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漢方薬(六君子湯など):PPI抵抗性のGERDに対して、消化管運動改善・症状緩和の効果が報告されています。
⚠ 薬は自己判断で中止しないでください
症状が落ち着いても、医師の指示なく薬を自己中断すると再燃・再発しやすくなります。特にバレット食道や重症の逆流性食道炎では、長期維持療法が必要です。減薬・休薬については必ず主治医にご相談ください。
🏥 外科的治療
薬物療法・生活習慣改善でも症状のコントロールが困難な場合、重度の食道裂孔ヘルニアを伴う場合、または長期の薬物療法を希望されない方には、腹腔鏡下噴門形成術(逆流防止手術)が選択されることがあります。その場合は、専門病院へご紹介します。
よくある質問(FAQ)Frequently Asked Questions
Q 胸やけがありますが、胃カメラは必ず受けなければいけませんか?
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A 症状だけで胃酸を抑える薬を試すこともできますが、バレット食道・逆流性食道炎の重症度・他の病気(胃潰瘍・胃がんなど)の有無を確認するためには胃カメラが必要です。特に「症状が続く」「症状が典型的でない」「体重減少や飲み込みにくさがある」場合は早めの内視鏡検査をお勧めします。
Q 逆流性食道炎は完治しますか?繰り返すものですか?
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A 軽症であれば薬と生活習慣改善で症状が消失することが多いです。ただし、食道裂孔ヘルニアや肥満などの素因がある場合は再発しやすく、長期的な維持療法が必要になることがあります。薬が効いても自己判断で中止せず、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。
Q PPIとP-CAB(タケキャブ)はどう違うのですか?
+
A PPIは数日で効果が安定する標準薬で、長年の使用実績があります。P-CAB(ボノプラザン)は日本で開発された新しい薬で、服用初日から強い酸分泌抑制効果が得られ、食事の影響を受けにくい点が特徴です。重症の逆流性食道炎やPPIで効果が不十分な場合に特に有効とされています。どちらが適しているかは病状や内視鏡所見によって医師が判断します。
Q ピロリ菌を除菌したら胸やけが出てきました。関係ありますか?
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A はい、関係することがあります。ピロリ菌がいると胃酸分泌が抑えられることがあるため、除菌後に胃酸分泌が回復し、逆流性食道炎が顕在化するケースがあります。胸やけが続く場合は一度ご相談ください。
Q バレット食道と言われました。がんになりますか?
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A バレット食道は食道腺癌(食道がん)の前癌病変となり得る状態ですが、すべての方ががんになるわけではありません。日本人のバレット食道は短節型が多く、欧米に比べてがんへの進展リスクは比較的低いとされています。ただし定期的な内視鏡検査による経過観察が非常に重要です。医師と相談して適切な間隔でフォローを続けましょう。
Q のどの違和感や慢性の咳も逆流性食道炎と関係がありますか?
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A はい、GERDは食道外症状として、のどの違和感・声がれ・慢性の咳・非心臓性の胸痛などを引き起こすことがあります。耳鼻科や呼吸器科で原因不明とされた場合、GERDが背景にあることがあります。酸分泌抑制薬の試験的投与や内視鏡検査で確認することが有効です。
🏥 気になる症状がある方はお気軽にご相談ください
胸やけ・呑酸・のどの違和感など、気になる症状がありましたら前川内科へ。消化器専門医による胃カメラ検査・診療を行っています。
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この記事の監修・執筆者
前川内科 院長 前川 直志
日本消化器病学会 専門医 日本消化器内視鏡学会 内視鏡専門医
三重県津市にて、地域に根差した消化器内科・内視鏡診療を行っています。胃食道逆流症の診断から内視鏡・薬物療法まで、患者さんお一人おひとりに合わせた診療を心がけています。
【主な参考資料】
・日本消化器病学会 編「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)」南江堂, 2021
・日本消化器病学会ガイドライン(https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/gerd.html)
・本ページの医療情報は2025年時点の最新ガイドラインに基づいています。個別の診断・治療については必ず医師にご相談ください。