便秘症

最終更新:2026年5月

便秘症のイラストとタイトル
 もくじ 
1. 便秘症とは

便秘でお悩みの方は非常に多く、日本では約2,200万人が便秘に悩んでいるとも言われています。「恥ずかしくて言い出せない」「市販薬でなんとかなっている」と自己判断されている方もいらっしゃいますが、長期にわたる自己対処は腸の機能低下や病気の見逃しにつながることがあります。

便秘症は、きちんと診断・治療を受けることで、多くの場合コントロールできる病気です。一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。

便秘症とは、本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態が続き、日常生活に支障をきたしている状態です。
排便回数が少ないというだけでなく、便の量が少ない・残便感がある・便が硬くて苦しい・お腹が張るといった症状も便秘症に含まれます。

便通異常症診療ガイドライン2023(日本消化管学会)では、「便秘」は状態の名称、「便秘症」は医学的な病名(疾患名)として区別されています。便秘の状態が6か月以上続く場合を慢性便秘症と診断します。慢性便秘症はQOL(生活の質)を低下させるだけでなく、長期的な健康にも影響するありふれた病気(コモンディジーズ)です。

便秘症の多くは長期間続くものですが、急に症状が現れる場合もあり、なかには大腸がんなど緊急の対応を要する病気が隠れていることがあります。

トイレで排便に苦しむ人のイラスト
2. 便秘症の診断

以下の6項目のうち、2項目以上を満たす場合に便秘症と診断されます。これらの症状が6か月以上続いている場合を慢性便秘症といいます。

強くいきむ習慣がある
便がウサギの糞のように硬い、またはコロコロしている
残便感(便が残っている感じ)がある
直腸・肛門のつまり感、または排便困難感がある
摘便や浣腸など排便に介助が必要なことがある
排便回数が週3回未満

▶ 便の形状は「ブリストルスケール」で評価します。タイプ1(硬くてコロコロ)~タイプ7(水様便)のうち、タイプ1・2が便秘の状態です。

ブリストルスケール(便の形状分類表)クリックで拡大

▲ ブリストルスケール:便の形状・硬さを7段階に分類した国際的な指標(タップ・クリックで拡大表示)

3. 便秘症の分類

2023年のガイドラインでは、便秘症は大きく2つの病態に分けて考えることが重要とされています。適切な治療のために、どちらの病態かを見極めることが必要です。

① 排便回数減少型(結腸運動機能障害型) 大腸が便をうまく運搬できないために便が少ない・出にくいタイプ。便秘と聞いて多くの方がイメージするタイプです。食物繊維や水分の不足、運動不足などが関係することが多いです。
② 排便困難型(直腸肛門機能障害型) 直腸に便が届いているのに、うまく排出できないタイプ。便意はあるのに出せない・強くいきまないと出ない・残便感があるといった症状が特徴です。骨盤底筋の機能低下などが原因になります。
4. 便秘の原因

便秘症はさまざまな原因で起こります。主な原因は以下のとおりです。

機能的な原因 腸の動き(蠕動運動)の低下、腹圧の低下、直腸収縮力の低下など。加齢とともに多くなります。
食生活・生活習慣 食物繊維・水分の摂取不足、朝食の欠食、咀嚼回数が少ない、運動不足など。
器質的疾患(腸の病気) 大腸がん・大腸ポリープ・クローン病・過敏性腸症候群など。とくに急に便秘が始まった場合は注意が必要です。
全身の病気 糖尿病・甲状腺機能低下症・慢性腎不全・脳血管障害・パーキンソン病・脊髄障害・強皮症・うつ病など。
薬剤性 鎮痛薬(オピオイド)・抗コリン薬・一部の降圧薬・鉄剤・制酸薬など多くの薬が便秘を引き起こすことがあります。
その他 1日の水分摂取が1,500ml以下(男性)、ダイエット経験(女性)、妊娠・産後なども便秘のリスクとなります。
5. 便秘症と大腸腫瘍のリスク 〜内視鏡検査のすすめ〜

慢性便秘症の方は、大腸がんのリスクが約1.5倍、大腸良性腫瘍(ポリープ)のリスクが約2.6倍になるとの報告があります。長期間の便秘を放置せず、一度は大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けることをお勧めします。

特に次の項目に当てはまる方は、大腸に病気が隠れている可能性があります。早めに受診してください。

⚠ こんな症状があれば早めに受診を
排便習慣が急に変わった(急な便秘や下痢)
体重が減少している
血便・黒い便が出る
おなかにしこりを感じる
50歳以降に初めて便秘が始まった
過去に大腸の病気になったことがある
ご家族に大腸がん・大腸ポリープの方がいる
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)のイラスト

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

6. 便秘症の治療

治療は大きく①食事療法②運動療法③薬物療法の3本柱です。病態や原因に合わせて組み合わせていきます。

食事療法・運動療法・薬物療法のイラスト
① 食事療法

規則正しい食事は腸の動きを整え、毎日決まった時間に排便しやすくします。

食物繊維:1日あたり成人男性21g以上・成人女性18g以上が目標です。主食は小麦より米・豆類由来のものを選ぶと便の量が増えます。

水分補給:1日1,500〜2,000mlを目安に水分を摂ることで便が軟らかくなります。

プロバイオティクス:ヨーグルト・乳酸菌飲料など腸内環境を整える食品も有効です。

朝食:朝食をとることで「胃結腸反射」が起こり、排便が促されます。朝食の欠食は便秘悪化の一因です。

② 運動療法

運動によって血流が改善され、大腸の動きが活発になります。呼吸や体の動きが腸を物理的に刺激する効果もあります。

有酸素運動:1日30分・週3〜5回のウォーキングや軽いジョギングが効果的です。

腹壁マッサージ:1日15分・週5回のおなかのマッサージも慢性便秘症の改善に有効とされています。

骨盤底筋トレーニング:排便困難型の便秘には、骨盤底筋を鍛えるトレーニングが助けになることがあります。

③ 薬物療法

食事・運動療法でも改善が乏しい場合、または病態によっては薬物療法を組み合わせます。
便通異常症診療ガイドライン2023では、以下のような薬剤が推奨されています。

分類 主な薬剤(例) 特徴・注意点
浸透圧性下剤 酸化マグネシウム、ポリエチレングリコール(モビコール®)、ラクツロース 便に水分を引き込んで軟らかくする。ガイドラインでは第一選択。※腎機能低下の方はMgに注意
上皮機能変容薬 ルビプロストン(アミティーザ®)、リナクロチド(リンゼス®) 腸液分泌を促し自然な排便を助ける。従来薬で効果不十分な場合に使用
胆汁酸トランスポーター阻害薬 エロビキシバット(グーフィス®) 胆汁酸を介して腸の動きを活性化。朝食前に服用する
刺激性下剤 センノシド、ピコスルファート 即効性があるが、長期連用で効果が弱まることがある。必要に応じた使用(on demand)が原則
その他 漢方薬(大黄甘草湯など)、消化管蠕動改善薬、浣腸・坐薬 体質や病態に合わせて選択
市販の下剤を長期間使い続けている方へ

市販の刺激性下剤(センノシドなど)を長期間使い続けると、腸が薬に依存するようになり、自力での排便が難しくなることがあります。また、腸の粘膜が変色する「大腸メラノーシス」を引き起こす場合もあります。

このような状態が長く続いてから受診された場合、その後の排便コントロールには相応の時間がかかることがあります。早めにご相談いただくほど、回復もスムーズです。現在の腸の状態を確認しながら、体に合った治療に切り替えていくことができますので、お気軽にご相談ください。


7. 便秘症と過敏性腸症候群(IBS)の違い

「便秘が続く」「お腹が張る・痛い」という症状は、便秘症だけでなく過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)でも起こります。この2つは似た症状を持ちながら、原因も治療法も異なります。自己判断で「ただの便秘」と思い込んでいると、本来必要な治療が受けられないことがあります。

便秘症 大腸の運搬機能や直腸肛門の排出機能の低下が主な原因。腹痛は必ずしも伴わない。食事・運動・薬物療法でコントロールできることが多い。大腸がん・器質的疾患との鑑別が重要。
過敏性腸症候群(IBS) 大腸に器質的な異常はないが、腸の知覚過敏・運動異常・脳腸相関の乱れなどにより症状が現れる。腹痛・腹部不快感を伴う便秘や下痢が特徴。便秘型・下痢型・混合型があり、ストレスで悪化しやすい。

こんな方はIBSの可能性も
▶ 便秘と下痢を繰り返す ▶ 排便すると腹痛が和らぐ ▶ 朝や外出前など緊張時に症状が強くなる ▶ 検査しても大腸に異常が見つからない

IBSと便秘症はどちらも大腸内視鏡検査などで器質的疾患を除外したうえで診断します。「どちらかわからない」という状態こそ、専門医への相談が大切です。当院では便秘症・IBSともに診療を行っています。

過敏性腸症候群(IBS)


8. よくある質問(FAQ)
Q便秘症は何日出なければ病気ですか?
A排便回数だけで判断するのではなく、排便困難・残便感・硬便などの症状が2項目以上あり日常生活に支障をきたす場合が「便秘症」と診断されます。毎日便が出ていても便秘症と診断されることもあります。6か月以上続く場合を慢性便秘症といいます(便通異常症診療ガイドライン2023)。
Q市販の下剤を長期間飲み続けても大丈夫ですか?
A市販の刺激性下剤(センノシドなど)の長期連用は、腸が薬に慣れて効かなくなる「耐性」や、腸の粘膜が黒くなる「大腸メラノーシス(偽メラノーシス)」の原因になることがあります。自己判断での長期使用は避け、症状が改善しない場合は専門医にご相談ください。
Q大腸メラノーシスとは何ですか?
Aセンナ・大黄(ダイオウ)・アロエ・カスカラなど「アントラキノン系」成分を含む下剤の長期服用により、大腸の粘膜が黒く変色する状態です。市販の便秘薬だけでなく、健康茶やダイエットサプリにもこれらの成分が含まれている場合があります。
大腸がん(腺がん)リスクの有意な増加は現時点では確認されていませんが、低グレードの腺腫(良性ポリープ)の検出率が上昇するとの報告もあり、定期的な大腸内視鏡検査で経過を確認することが重要です。
また、腸の神経や筋肉の機能が低下して便秘がさらに悪化する悪循環も問題です。原因となる下剤をやめると、1年程度で色素は徐々に消えていきます。
Q便秘症で大腸がんのリスクは上がりますか?
A慢性便秘症の方は大腸がんのリスクが約1.5倍、大腸良性腫瘍(ポリープ)のリスクが約2.6倍と報告されています。特に排便習慣の急変・血便・体重減少がある場合は、早めの大腸内視鏡検査をお勧めします。
Q便秘症は生活習慣の改善だけで治りますか?
A軽度の場合は食物繊維・水分の摂取増加、適度な運動、規則正しい排便習慣の維持で改善することがあります。ただし、原因によっては薬物療法が必要なこともあります。生活習慣を改善しても数週間経っても改善しない場合は受診をご検討ください。
Q高齢者の便秘症で気をつけることはありますか?
A高齢者は腸の運動機能低下・水分摂取不足・薬剤性の便秘が多くなります。また酸化マグネシウムは腎機能が低下している方では高マグネシウム血症のリスクがあるため、専門医の管理のもとで薬を選ぶことが重要です。便秘薬を自己判断で増やすことは避けてください。
Q排便の「正常」とはどのくらいですか?
A正常な排便の回数は、週3回〜1日3回の範囲とされています(ガイドライン2023)。この範囲内でも、残便感・排便困難・硬い便などの不快な症状がある場合は便秘症と診断されることがあります。「毎日出ているから大丈夫」と決めつけないことが大切です。
Q便秘症と過敏性腸症候群(IBS)はどう違いますか?
A便秘症は大腸の運搬・排出機能の低下が主な原因で、腹痛を必ずしも伴いません。一方、IBSは腸に器質的な異常がないにもかかわらず、腹痛・腹部不快感を伴う便秘や下痢が慢性的に続く状態です。便秘と下痢を繰り返す、排便すると腹痛が和らぐ、緊張時に症状が強くなるといった場合はIBSの可能性があります。どちらも大腸カメラで器質的疾患を除外したうえで診断しますので、まずご相談ください。

9. 最後に

便秘の悩みはなかなか人に話しにくいこともあるかもしれませんが、便秘症は非常に多くの方が抱えている症状です。また「たかが便秘」と自己判断して市販薬を長期間使い続けていると、腸の機能がさらに低下したり、大腸の病気を見逃してしまうリスクがあります。

前川内科は消化器・胃腸の専門クリニックとして、便秘症の診療を行っています。食事・生活習慣のご指導から、ガイドラインに基づく最新薬物療法、大腸内視鏡検査まで一貫して対応しています。お一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

この記事の監修・執筆者
前川内科 院長:前川 直志
日本消化器病学会 専門医
日本消化器内視鏡学会認定 内視鏡専門医
三重県津市にて、地域に根差した消化器内科・内視鏡診療を行っています。
参考:便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症(日本消化管学会編)