睡眠時無呼吸症候群

「いびきがひどい」「日中ひどく眠い」「夜中に何度も目が覚める」――そのような症状がある方は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があります。放置すると心臓や血管へ深刻な影響を与えますが、適切な治療で改善できます。
▼ も く じ ▼
1.睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは 2.頻度・なりやすい人 3.原因 4.症状 5.身体への影響 6.診断・検査 7.治療 8.よくある質問(FAQ)
1. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)とは、眠っている間に繰り返し呼吸が止まる病気です。

SASには主に2種類あります。最も多いのは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)で、のどの奥の気道が物理的に狭くなることで呼吸が止まります。もう一つは中枢性で、脳からの呼吸指令が途絶えるタイプですが、頻度は低く、心不全や脳卒中後などに見られます。一般的に「SAS」と言う場合は閉塞性(OSAS)を指すことがほとんどです。

睡眠中に10秒以上の呼吸停止(無呼吸)または50%以上の換気低下(低呼吸)が1時間に5回以上繰り返される状態がSASと定義されています。

2. 頻度・なりやすい人

SASは決して珍しい病気ではありません。成人男性の約3〜7%、女性の約2〜5%にみられるとされています(日本呼吸器学会 SAS診療ガイドライン2020)。日本では少なくとも200万人以上が罹患していると推計されており、実際に診断・治療を受けているのはそのごく一部とも言われています。

特になりやすいのは以下のような方です。

中年以降の男性(40〜50代が半数以上)
閉経後の女性(閉経後に女性も増加)
肥満・首まわりが太い方(首周り男性43cm以上、女性38cm以上が目安)
あごが小さい・舌が大きい方
高血圧・糖尿病・心不全などの持病がある方
3. 原因

閉塞性SASの直接の原因は、眠っている間に舌や軟口蓋などの軟部組織が気道(空気の通り道)をふさぐことです。以下のような因子が気道を狭くします。

肥満(首周りへの脂肪沈着)
扁桃肥大・軟口蓋が長い
あごが小さい・後退している
舌が大きい
加齢による筋力低下
仰向けに寝る習慣
飲酒・喫煙(筋肉の弛緩・炎症)
鼻づまり・鼻中隔弯曲
4. 症状

SASの症状は夜間だけでなく、日中にも現れます。以下に当てはまる方はSASの可能性があります。

夜間の大きないびき(家族に指摘されることが多い)
睡眠中の無呼吸(呼吸が止まっていると指摘された)
夜中に何度も目が覚める(夜間頻尿を伴うこともある)
起床時の頭痛・口の渇き
日中の強い眠気(会議中・運転中でも眠くなる)
集中力・記憶力の低下
常に疲労感・だるさ
気分の落ち込み・イライラ

⚠️ 日中の強い眠気は交通事故・労働災害のリスクを高めます。運転業務や機械操作をされる方は特にご注意ください。

5. 身体への影響

SASでは睡眠中に繰り返し低酸素状態・睡眠の分断が起こるため、全身のあらゆる臓器が悪影響を受けます。

❤ 心臓・血管への影響 高血圧(治療抵抗性のものを含む)、心筋梗塞、不整脈、心不全のリスクが高まります。脳卒中・心筋梗塞のリスクは3〜4倍になるとも報告されています。
🌲 代謝・内分泌への影響 糖尿病の悪化・肥満との相互悪化サイクルが生じやすくなります。インスリン抵抗性が高まるため、血糖コントロールにも影響します。
🧠 精神・神経への影響 うつ病・認知機能低下との関連が報告されています。睡眠の質が著しく低下するため、気分障害を合併しやすくなります。
💉 腎臓への影響 重症SASでは慢性腎障害の進行が加速するとされています。

一方、CPAP治療を適切に行うことで、死亡率を健常者と同等レベルまで改善できると報告されています(日本循環器学会 2023年改訂版ガイドライン)。早期発見・早期治療が大切です。

6. 診断・検査

SASの診断は、睡眠中の呼吸状態を測定する検査によって行います。当院でも以下の検査を行っています。

簡易睡眠検査(携帯型モニター):自宅で装着して寝るだけ。指先にセンサーをつけ、血中酸素濃度・脈拍・気流などを測定します。外来で機器をお貸しします。
睡眠ポリグラフ検査(PSG・携帯型):簡易検査より多くの項目を測定する精密な検査です。当院では自宅で受けられる携帯型PSGにも対応しています。

重症度の判定(AHI:無呼吸低呼吸指数)

重症度 AHI(1時間あたりの無呼吸・低呼吸回数)
軽症 5回以上〜15回未満
中等症 15回以上〜30回未満
重症 30回以上

AHIが5以上で、日中の眠気などの症状を伴う場合にSASと診断されます。
保険適応で検査を受けることができますので、お気軽にご相談ください。

【参考:CPAP保険適応の基準(令和8年6月改定後)】
・簡易検査でAHI 30以上(改定前:40以上)
・PSG検査でAHI 15以上(改定前:20以上)
※いずれも日中の眠気などの症状があることが条件です。令和8年6月の診療報酬改定により、従来よりも基準が緩和されCPAP治療を受けやすくなりました。

7. 治療

SASの治療法は重症度や原因によって異なります。

第一選択① CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)

就寝時にマスクを装着し、機械から送られる空気圧で気道を広げて無呼吸を防ぐ治療法です。

保険適応の目安(令和8年6月改定後):簡易検査でAHI 30以上、またはPSGでAHI 15以上かつ日中の眠気などの症状がある場合。定期的な外来通院が必要です。

生命予後の改善を含む有効性が最も証明されている標準的治療です。適切に継続することで、心臓・血管リスクを大きく低減できます。

当院でもCPAP治療を行っています。機器のご利用や設定については、取り扱い業者がサポートします。

軽〜中等症② 口腔内装置(マウスピース)

就寝時に歯科で作製したオーダーメイドのマウスピースを装着し、下顎を前方に固定することで気道を広げる治療法です。

主に軽症〜中等症の方、またはCPAPが使用しにくい方に適しています。小型で電源不要なため持ち運びも便利です。

保険適応には医科でのSAS診断と歯科への紹介状が必要です。当院から紹介状をお出しします。

全重症度③ 生活習慣の改善

SASの悪化因子を取り除くことで症状が改善することがあります。CPAP・マウスピース治療と並行して行うことが重要です。

体重を減らす(肥満の改善)
寝る前の飲酒・睡眠薬の使用を控える
横向きに寝る(仰向けを避ける)
禁煙する
鼻づまりを治療する(耳鼻科への紹介も可能)
8. よくある質問(FAQ)
Qいびきをかくだけですが、SASでしょうか?
AいびきはSASの最も代表的なサインですが、いびきがあってもSASでない場合もあります。逆にいびきが目立たなくてもSASのことがあります。日中の眠気・夜中に何度も目が覚める・家族から呼吸が止まっていると言われたことがある方は、一度検査を受けることをお勧めします。
Q検査は入院しないとできませんか?
A当院では簡易睡眠検査・携帯型PSGともに自宅で受けることができます。外来で検査機器をお貸しし、ご自宅でいつも通り寝るだけです。入院は必要ありません。
Q太っていないのにSASと言われました。なぜですか?
ASASの原因は肥満だけではありません。日本人はあごが小さい・舌が大きい・扁桃が肥大しているといった骨格・解剖学的な特徴でSASになりやすい方が多くいます。欧米人に比べてBMIが低くてもSASになりやすいとされています。体型に関わらず、症状がある方はぜひご相談ください。
QCPAPは毎晩使わないといけませんか?旅行のときはどうすれば?
A基本的に毎晩の使用が推奨されています。最近の機器は小型・軽量になっており、旅行時の持ち運びも可能なタイプがあります。電源・アダプター等の詳細については、機器の取り扱い業者にお尋ねください。
QSASは治りますか?治療をやめられますか?
A根本原因(扁桃肥大など)を外科的に治療したり、体重を大幅に減らしたりすることで改善・治癒することがあります。一方、CPAPやマウスピースは症状をコントロールする治療のため、使用をやめると無呼吸が再発するのが一般的です。ご自身の状況については担当医と相談のうえで判断してください。
Q子どもにもSASはありますか?
A小児でもSASはあります。子どもの場合は扁桃・アデノイドの肥大が主な原因となることが多く、外科的治療(摘出術)が有効なケースがあります。子どものSASは集中力低下・成長への影響・夜尿症との関連も指摘されています。気になる症状がある場合は小児科・耳鼻科への受診をお勧めします。
Q費用はどのくらいかかりますか?
ASASが疑われる方は保険適応で検査・治療を受けることができます(3割負担の目安:検査費用は数千円〜1万円程度、CPAP治療は月額約4,500円程度)。詳しくは受診時にお気軽にお尋ねください。
院長より

「いびきがうるさい」「日中ひどく眠い」「呼吸が止まっていると家族に言われた」――こうした症状があっても、「たいしたことはないだろう」と放置されている方が多くいらっしゃいます。しかしSASは、高血圧・糖尿病・心臓病などと深く関わる病気であり、適切に治療することで体への影響を大きく減らすことができます。

当院では簡易検査・携帯型PSGともに自宅で受けられる検査に対応しており、CPAP治療まで一貫して行っています。検査は診察後にご案内しますので、気になる症状がある方はまずお気軽にご受診ください。

前川内科 院長 前川 直志
日本内科学会認定 総合内科専門医
関連ページ

SASは生活習慣病と深く関連しています。以下のページも合わせてご覧ください。

*本ページの医療情報は、日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群(SAS)診療ガイドライン2020」、日本循環器学会「2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」をもとに作成しています。