糖尿病

【この記事の監修】 前川内科 院長:前川 直志(日本内科学会認定 総合内科専門医)
参考:糖尿病診療ガイドライン2024(日本糖尿病学会)/ 糖尿病治療ガイド2024

糖尿病の解説と治療について

1.糖尿病ってどんな病気?

糖尿病は、血液中の糖分(血糖)を細胞に取り込んでエネルギーに変える「インスリン」というホルモンが十分に働かなくなり、慢性的に血糖値が高い状態が続く病気です。

日本では約1,000万人が糖尿病と推計されており、さらに約1,000万人が「糖尿病予備群(境界型)」とされています。決して他人事ではない、非常に身近な病気です。

原因は、過食・運動不足・肥満などの生活習慣、遺伝的要因、加齢などが組み合わさっています。放置すると、全身の血管が傷つき、深刻な合併症を引き起こします。

■ 糖尿病の主な種類
1型糖尿病:膵臓のβ細胞が自己免疫反応などにより破壊され、インスリンがほぼ作られなくなる。子どもや若者に多いが成人にも発症する。インスリン注射が必須。
2型糖尿病:インスリンの分泌量低下と、インスリンの効き目低下(インスリン抵抗性)が組み合わさって発症。糖尿病全体の約95%を占め、生活習慣と深く関わる。

2.症状:こんなサインはありませんか?

糖尿病の初期は自覚症状がほとんどありません。健診で初めて発見されることが多く、「症状がないから大丈夫」は禁物です。以下の症状が出ている場合は、かなり血糖値が高くなっている可能性があります。

・ 喉が異常に乾く(口渇)、水分をたくさん飲む(多飲)
・ 尿の回数や量が増える(多尿)
・ 食べているのに体重が減る
・ 疲れやすい、体がだるい
・ 足の先がしびれる、目がかすむ
・ 傷が治りにくい、感染症にかかりやすい

3.診断基準:数値の目安

糖尿病の診断には、その時の血糖値だけでなく、過去1〜2ヶ月の平均的な血糖状態を示す「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」が非常に重要です。日本糖尿病学会の診断基準(2024年版)では、以下のいずれかを「糖尿病型」と判定します。

検査の種類
糖尿病型の判定値
空腹時血糖値(8時間以上絶食後)
126 mg/dL 以上
随時血糖値(食後時間を問わない)
200 mg/dL 以上
75gOGTT(ブドウ糖負荷試験)2時間値
200 mg/dL 以上
HbA1c
6.5% 以上
診断の確定について

「糖尿病型」が別の日に2回以上確認された場合、または「糖尿病型」かつ次のいずれかを満たす場合は1回の検査でも診断確定となります。

・ 糖尿病の典型的症状(口渇・多飲・多尿・体重減少)がある
・ HbA1c 6.5%以上と血糖値の糖尿病型が同時に確認された
・ 確実な糖尿病網膜症が確認された

治療中の血糖コントロール目標(HbA1c)は患者さんの状態に応じて個別に設定されますが、一般的な目安は以下の通りです。

🟢 正常化目標
6.0% 未満 血糖値の正常化を目指す(若年・罹病期間が短い・心血管合併症なし)
🔵 基本目標(標準)
7.0% 未満 合併症予防のための基本目標(多くの患者さんの標準)
🔴 最低限の目標
8.0% 未満 低血糖リスクが高い場合や治療強化が困難な場合の最低限の目標

※目標値は年齢・合併症・低血糖リスクなどを考慮して医師が個別に設定します。自己判断で変更しないでください。

4.境界型(糖尿病予備群)と言われたら

健診で「血糖値が高め」「要経過観察」と指摘されたことはありませんか?これは「境界型(糖尿病予備群)」と呼ばれる状態で、糖尿病の診断基準には届かないものの、正常範囲を超えている段階です。

境界型の数値の目安(参考)
・ 空腹時血糖値
100〜125 mg/dL
(正常高値〜境界型)
・ HbA1c
6.0〜6.4% 付近
(境界型の目安)
・ 75gOGTT 2時間値
140〜199 mg/dL
(耐糖能異常)

※境界型の判定には複数の検査を組み合わせて評価します。数値だけで自己判断せず、医師にご相談ください。

⚠ 「まだ糖尿病じゃないから大丈夫」は危険です
・ 境界型の段階から、すでに動脈硬化(脳梗塞・心筋梗塞のリスク)が進行し始めることが2024年ガイドラインで明記されています。
・ 境界型は放置すると糖尿病へ進行するリスクが高く、神経障害・網膜症・腎機能の低下も少しずつ起こり始める可能性があります。
・ 一方、この段階でしっかり生活を見直せば、糖尿病への進行を予防・遅延できることが多くの研究で示されています。
✅ 境界型で取り組むべきこと
食事の見直し:摂りすぎているエネルギーを把握し、野菜・食物繊維を意識して増やす。清涼飲料水・間食・菓子類を控える。
身体活動の増加:毎日30分程度のウォーキングを目標に。エレベーターより階段、少し遠い駐車場など日常の工夫から始めるのが継続のコツです。
適正体重の維持:肥満がある場合、体重の5〜7%の減量だけで糖尿病発症リスクが大幅に低下することが示されています。
定期的な受診・再検査:3〜6ヶ月ごとの血糖値・HbA1cの確認が推奨されます。

「境界型と言われたが、どうしたらいいかわからない」という方も、お気軽にご相談ください。生活習慣の改善を一緒に考えます。

5.合併症:恐ろしい「しめじ」と「動脈硬化」

糖尿病の真の恐ろしさは、長期間の高血糖がもたらす合併症にあります。特に細い血管(細小血管)が障害される三大合併症は、頭文字をとって「しめじ」と呼ばれます。

【し】神経障害(糖尿病性神経障害)
手足のしびれ・痛み・感覚麻痺が起こります。傷に気づかず壊疽(えそ)が進行し、足の切断が必要になるケースもあります。
【め】網膜症(糖尿病網膜症)
眼底の血管が傷つき出血・浮腫が起こります。日本における中高年の失明原因の第2位(緑内障に次ぐ)です。定期的な眼底検査が不可欠です。
【じ】腎症(糖尿病性腎症)
腎臓のろ過機能が低下します。進行すると人工透析が必要になります。日本の透析導入原因の第1位(約40%)を占めます。

さらに、太い血管(大血管)が詰まる「脳梗塞」や「心筋梗塞」のリスクも大きく高まります。血糖値が境界型の段階から動脈硬化は進行し始めるため、早期からの対策が重要です。

6.治療の基本:合併症を防ぐために

■ 治療の3本柱
① 食事療法

適切なエネルギー量を守り、バランスよく食べることが治療の根幹です。2024年ガイドラインでは、糖質・脂質・タンパク質のバランス(エネルギー比率)を重視しつつ、低GI食品の選択食物繊維の積極的な摂取が推奨されています。食事の内容だけでなく、食べる順番(野菜→タンパク質→主食)や食後の血糖上昇を緩やかにする工夫も効果的です。

② 運動療法

筋肉を動かすことでインスリンの効果を高め、血糖値を下げます。2024年ガイドラインでは以下が推奨されています。

有酸素運動
ウォーキング・水泳など
推奨:週150分以上・週3回以上(2日以上連続して休まない)
レジスタンス運動
スクワット・軽い筋トレなど
推奨:週2〜3回(連続しない日程で)
🆕 座位時間を減らす 2024年改訂ポイント
長時間座り続けることを避け、30分ごとに数分の軽い活動(立つ・軽く歩く)を挟むことが新たに強調されています。
③ 薬物治療

食事・運動療法だけで血糖値が改善しない場合、または必要と判断された場合に行います。

経口薬(飲み薬):SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬・メトホルミンなど、作用機序の異なる複数の薬剤があります。心臓や腎臓への保護効果をもつ薬剤(SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬)が近年特に注目されています。
インスリン注射・GLP-1/GIP受容体作動薬注射:血糖コントロールの状態や病態に応じて、注射薬を組み合わせることがあります。

※薬の選択は、患者さんの腎機能・心臓の状態・低血糖リスク・生活スタイルなどを総合的に考慮して決定します。

7.よくあるご質問(FAQ)

Q. 健診で「血糖値が高め」と言われました。すぐに糖尿病ですか?
A. 1回の検査だけで糖尿病と診断されることは基本的にありません。ただし「境界型(予備群)」の段階でも動脈硬化が進行し始めるため、放置は禁物です。まずは内科を受診して再検査・詳しい評価を受けることをお勧めします。
Q. 糖尿病でもお酒は飲んでいいですか?
A. 合併症がなく血糖コントロールが良好であれば、純アルコール量で1日20g程度(ビール中瓶1本・日本酒1合・ワイングラス2杯弱が目安)を上限とした節度ある飲酒が許容される場合があります。ただし、インスリン注射やSU薬(経口血糖降下薬の一種)を使用中の方は食事なしの飲酒で低血糖が起こりやすくなるため特に注意が必要です。また、SGLT2阻害薬を使用中の方は過度の飲酒で脱水リスクが高まります。必ず主治医に確認してください。
Q. 一度薬を飲み始めたら、一生やめられませんか?
A. 必ずしもそうではありません。食事・運動療法によって血糖コントロールが改善すれば、薬の減量・中止ができる場合があります。ただし自己判断での中止は血糖値の急激な悪化を招く危険があります。変化があれば必ず医師と相談してください。「薬を飲みたくないから受診をためらう」のが最も危険なパターンです。
Q. 甘いものは一切食べてはいけませんか?
A.一切禁止」ではありません。食事療法で重要なのは1日の総エネルギー量と食事全体のバランスです。菓子類や清涼飲料水は血糖値を急上昇させるため量に注意が必要ですが、適量を食事の一部として取り入れることは可能です。2024年ガイドラインでも「食事の個別化・柔軟なアプローチ」が重視されています。食べ方の具体的な工夫については、受診時にご相談ください。
Q. 痩せていても糖尿病になりますか?
A. なります。日本人はインスリンの分泌量が欧米人に比べて少ない体質の方が多く、肥満がなくても糖尿病を発症することがあります。遺伝的要因も大きく関わります。「体型は普通だから大丈夫」と思い込まず、健診値に変化があれば早めに受診することが大切です。
Q. 糖尿病は遺伝しますか?家族に糖尿病がいると心配です。
A. 遺伝的要因は確かに存在しますが、「遺伝する=必ず発症する」わけではありません。生活習慣の改善によって発症リスクを大幅に下げることができます。家族に糖尿病がいる方は特に定期的な血糖値チェックをお勧めします。リスクがあると分かっていることは、早期対策につながる「知識」です。
💡 院長コメント

糖尿病治療の究極の目的は、血糖値を下げることそのものではなく、「合併症を防いで健康な人と変わらない生活を送ること」です。最近は血糖値を下げながら心臓や腎臓も守れる薬剤も登場しており、治療の選択肢は大きく広がっています。数値に一喜一憂しすぎず、継続できる生活習慣を一緒に見つけていきましょう。

健診で血糖値の異常を指摘された方や、
気になる症状がある方はお早めにご相談ください。