麻疹

 もくじ 
1. 麻しんとは
麻疹ウイルスによる感染のイラスト
麻疹(ましん)は、麻疹ウイルス(Measles morbillivirus)によって引き起こされる急性熱性感染症で、一般的に「はしか」とも呼ばれます。 発熱・咳・鼻水・目やにといった風邪に似た症状に続いて全身に発しんが現れます。感染力は現在知られている感染症の中でも最も強いクラスに属し、免疫のない人が感染するとほぼ90%以上が発症します。 子どもだけでなく大人も感染します。肺炎・脳炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあり、特効薬がないため、ワクチンによる予防が最大の対策です。
⚠️ 麻疹の流行にご注意ください 日本は2015年にWHOから「麻疹排除国」として認定されましたが、近年は海外からのウイルス持ち込みによる国内感染が相次いでいます。特に公共交通機関・学校・医療機関などを介した感染連鎖が報告されており、ワクチン接種歴の確認と予防接種が重要です。
2. 症状と経過
麻疹の症状を呈する子どもから大人のイラスト
感染から発症までの典型的な経過を以下に示します。
潜伏期 感染後 約10〜12日間(無症状) この期間は症状がなく、本人も気づきません。しかし発症する1〜2日前から感染力を持ち始めます。
カタル期 発症後 3〜4日間 38℃前後の発熱、せき、鼻水、目やにが続きます。この時期に口腔粘膜にコプリック斑(小さな白色の斑点)が現れることがあり、麻疹診断の手がかりになります。感染力が最も強い時期です。
発しん期 39〜40℃の高熱+全身の発しん いったん解熱しかけた後、再び39〜40℃の高熱となり、首・顔から始まる赤い発しんが全身に広がります。発しんは3〜4日で解熱とともに消退しますが、しばらく色素沈着が残ります。
回復期 主症状は7〜10日で回復 合併症がなければ主な症状は7〜10日で回復します。ただし免疫力の回復には1か月程度かかるため、その間は他の感染症への注意が必要です。
💡 コプリック斑とは 発しんが出る前後1〜2日に、頬の内側(口腔粘膜)に現れる小さな白色の斑点です。麻疹に特徴的な所見ですが、出現期間が非常に短く、実際の診察では確認できないことも多い所見です。見られた場合は診断の重要な根拠となりますが、コプリック斑がないからといって麻疹を否定することはできません。
3. 合併症 麻しんにかかると全身の免疫機能が低下し、約30%の人に何らかの合併症が生じます。また1,000人に1人程度が死亡するとされています。
7〜9% 中耳炎(100人中7〜9人)
約6% 肺炎(100人中約6人)
約0.1% 脳炎(1,000人中約1人)
🧠 亜急性硬化性全脳炎(SSPE) 麻疹ウイルスが脳内に潜伏し、感染から平均7〜10年後に発症する重篤な脳炎です。特に乳幼児期の感染との関連が強いとされています。麻疹患者の約10万人に1人の割合でみられ、知能障害・運動障害が徐々に進行します。現時点で有効な治療法はなく、麻疹ワクチンによる予防が唯一の対策です。
🦠 免疫健忘(Immune Amnesia) 近年の研究により、麻疹ウイルスへの感染によってそれまでに獲得していた他の感染症への免疫記憶が部分的に消去されてしまうことが明らかになっています。そのため麻疹回復後もしばらく他の感染症にかかりやすい状態が続きます。
4. 感染経路・感染力
麻疹の感染経路:空気感染・飛沫感染・接触感染のイラスト
💨 空気感染(主経路) 患者の咳・くしゃみで飛び散ったウイルスが乾燥して空気中を漂い、離れた場所にいる人にも感染します。同じ部屋にいるだけで感染するリスクがあります。
💦 飛沫感染 患者が咳・くしゃみをした際に飛び散る水分を含んだ飛沫を直接吸い込むことで感染します。
🤝 接触感染 ウイルスが付着した手や物に触れ、その手で口・鼻・目を触ることで感染します。
🔴 感染力の比較 麻疹の基本再生産数(R₀)は12〜18とされています。免疫のない集団で1人の感染者がいると12〜14人に感染が広がります(インフルエンザは1〜2人)。感染症の中でも最強クラスの感染力です。
感染期間:発しんが出る3〜5日前(症状出現の1日前)から感染力を持ち、発しん消失後4日間(または解熱後3日間)まで感染力が続きます。症状が出る前から他者にうつすことがあるため注意が必要です。
5. 治療法 麻疹ウイルスに直接効く特効薬は現在ありません。治療は対症療法が中心となります。
💊 解熱薬 高熱が続く場合に使用します。
💊 抗菌薬 肺炎など細菌の二次感染を合併した場合に使用します。
🛌 安静・栄養・水分補給 十分な休養と水分・栄養の補給が回復を支えます。
💊 ビタミンA補充(重症例) WHOはビタミンA欠乏リスクのある小児や重症例に対し、ビタミンAの補充投与を推奨しています。眼への合併症(角膜障害)を防ぐ効果が期待されます。
重症化リスクが高い場合(乳幼児・免疫不全・妊婦など)は入院管理が必要になることがあります。特効薬がない以上、ワクチンで予防することが最善の対策です。
6. 予防法・ワクチン
唯一の予防方法はワクチンです。ワクチン接種を受けている人のイラスト
麻しんに対する唯一の有効な予防法はMRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)の接種です。免疫をあらかじめ獲得しておけば、麻しんはワクチンで防ぐことができます。
区分 対象 費用 ワクチン
第1期 生後12か月以上24か月未満 公費(無料) MRワクチン
第2期 5歳以上7歳未満・小学校入学前1年間 公費(無料) MRワクチン
上記以外 免疫のない方・接種歴不明の方 自費 MRワクチン
第1期
対象生後12か月以上24か月未満
費用公費(無料)
種類MRワクチン
第2期
対象5歳以上7歳未満・小学校入学前1年間
費用公費(無料)
種類MRワクチン
上記以外(自費)
対象免疫のない方・接種歴不明の方
費用自費
種類MRワクチン
抗体検査(採血)で麻疹への免疫があるか確認できます
接種歴が不明・2回接種が完了していない方はご相談ください
海外渡航前には接種歴の確認と、必要に応じた接種をお勧めします
MRワクチンは生ワクチンのため、妊娠中は接種できません。妊娠希望の方は事前にご相談ください
7. ワクチンの効果
約95% 1回接種後に免疫が成立する割合
約99% 2回接種後に免疫が成立する割合
1回の接種で約95%に免疫ができます。周囲で麻しんが流行した場合、免疫のつかない約5%の方は発症する可能性があります。2回接種で約99%に免疫が成立するとされており、2回の接種完了が重要です。 抗体はワクチン接種後約2週間で血中に現れます。麻疹患者と接触した後でも、接触後72時間以内にワクチンを接種することで発症を防げる可能性がありますが、確実ではないため、事前の接種が最も重要です。 2回接種を完了した方は、将来にわたり長期間(多くの場合、生涯にわたり)高い割合で麻疹を予防できます。
8. こんな方は特に注意・受診前はお電話を
ワクチン接種が重要です。医師と患者のイラスト
⚠️ 重症化リスクが高い方 5歳未満の乳幼児、妊婦の方、免疫抑制剤や抗がん剤を使用中の方、HIV感染者など免疫不全の方は、合併症が重篤化しやすいため早めの対処が必要です。
📋 受診前に必ずお電話ください 麻疹(はしか)が疑われる場合は、来院前に必ずお電話ください。院内での感染拡大を防ぐため、通常の待合室を経由しない対応をいたします。電話の際は発症日・症状・渡航歴・接触歴もあわせてお伝えください。
9. よくある質問(FAQ)
Q 麻疹とはしかは同じ病気ですか?
A 同じ病気です。「麻疹(ましん)」が正式名称で、「はしか」は俗称です。原因は麻疹ウイルス(Measles morbillivirus)で、どちらの呼び方でも同じ感染症を指します。
Q 子どもの頃に麻疹にかかりました。また感染しますか?
A 麻疹ウイルスに一度感染して回復すると、通常は生涯にわたる免疫が得られ、再感染はほとんどありません。ただし過去の感染記録が不明確な場合や、乳幼児期にごく軽症で経過した場合など、十分な免疫がついていない可能性もあります。心配な方は抗体検査でご確認いただけます。
Q 麻疹の感染力はどのくらい強いですか?
A 非常に強く、免疫のない集団では1人の感染者から12〜14人に感染が広がります(インフルエンザは1〜2人)。同じ部屋にいるだけでも感染するほどの空気感染力を持ちます。感染した場合のほぼ90%以上が発症します。
Q 麻疹にかかった後、何年も経って脳炎になることがあると聞きました。本当ですか?
A はい。亜急性硬化性全脳炎(SSPE)といい、特に乳幼児期に麻疹にかかった後、平均7〜10年後に発症することがある深刻な脳炎です。10万人に1人の割合でみられ、一度発症すると有効な治療法はなく、知能・運動障害が進行します。麻疹ワクチンでの予防が唯一の対策です。
Q 麻疹が疑われる症状があります。受診前に連絡が必要ですか?
A 必ずご来院前にお電話ください。麻疹は感染力が非常に強いため、通常の待合室を経由せずに対応できるよう準備が必要です。電話時に発症日、症状、渡航歴、接触歴をお伝えいただけるとスムーズです。
Q 大人もワクチンを受けた方がいいですか?
A 2回の接種歴が確認できない方や接種歴不明の方にはお勧めします。まず母子健康手帳で接種歴をご確認ください。不明な場合は抗体検査で免疫の有無を調べることができます。当院でも自費にて抗体検査・MRワクチン接種を行っていますので、お気軽にご相談ください。
Q 妊婦は麻疹ワクチンを接種できますか?
A MRワクチンは生ワクチンであるため、妊娠中は接種できません。妊娠を希望している方は妊娠前に接種することをお勧めします。接種後は4週間の避妊が必要です。妊婦の方が麻疹にかかると自然流産・早産のリスクが高まるため、周囲の家族がワクチン接種を受けることも大切です。
抗体検査・ワクチン接種のご相談は前川内科へ 「接種歴が不明」「はしかの免疫があるか不安」という方は
お気軽にご相談ください。
この記事の監修・執筆者 前川内科 院長:前川 直志 日本内科学会認定 総合内科専門医 三重県津市にて、地域に根差した内科診療を行っています。
【参考情報源】国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症情報提供サイト、厚生労働省「麻しんに関する特定感染症予防指針」、WHO Measles Fact Sheet、日本小児科学会。本ページの情報は2026年5月時点のものです。最新情報は各機関のウェブサイトをご確認ください。