ヘリコバクター・ピロリ菌
1.ピロリ菌とは
2.感染しているとどうなるの?
3.どうやって調べるの?
4.検査の適応は?
5.内視鏡検査が必要なわけ
6.除菌の適応
7.除菌の目的
8.除菌の方法
9.除菌できたかどうかは?
10.除菌後はどうなるの?
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌:正式名称Helicobacter pylori)は、ヒトの胃粘膜のみに生息する細菌です。
ピロリ菌が産生する酵素の一つにウレアーゼがあり、これによって強い胃酸から自分自身を守って、胃の粘膜で生存しています。
ピロリ菌の感染には環境が関係していると言われていますが、日本のような先進国においては、主に親子間で感染します。また、兄弟や家族以外の小児でも感染すると言われています。
ピロリ菌に感染していると、さまざまな病気を引き起こすことがあります。
胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、過形成性ポリープ、胃がんなどが発生しやすくなります。
ピロリ感染があると、胃がんになるリスクは20倍以上になると言われています。
ピロリ菌に感染した胃では、内視鏡で特徴的な所見が出るため、ピロリ菌に感染しているかどうかは内視鏡で検査するとある程度分かります。実際に感染しているかどうかは次の検査のいずれかで確認します。
①便中抗原(便検査)
②抗体検査(採血)
③ウレアーゼ試験(内視鏡)
④組織鏡検法(内視鏡)
⑤培養法(内視鏡)
⑥尿素呼気試験(内服と呼気)
それぞれ特色がありますが、患者さんの状態、内服薬種類、施設設備などによって方法を決めて調べます。
ピロリ検査の適応は、下記①~⑤になります。
①内視鏡または造影にて胃潰瘍または十二指腸潰瘍と確定診断
②胃MALTリンパ腫
③特発性血小板減少性紫斑病
④早期胃がんに対する内視鏡治療後の患者
⑤内視鏡検査で胃炎と確定診断
これら①~⑤のいずれかが認められた場合に、ピロリ検査を保険適応で行います。
ピロリ菌に感染している場合には、必ず慢性活動性胃炎を起こしており、胃がんやピロリ関連疾患が他に存在している可能性があります。
日本では特に胃がんが多いので、胃がんをチェックしてから除菌治療を行うべきと決められています。
ピロリ菌を除菌をするには、内視鏡でピロリ菌感染に特徴的な所見や病気があることの確認し、ピロリ菌を調べる検査でピロリ菌がいることを確認する必要がなります。
ピロリ菌の感染が確認されたら、除菌の治療を保険適応で行えます。
ピロリ菌を除菌すると、胃や十二指腸の病気になりにくくなったり、これらの病気が再発しにくくなったりすることから、ピロリ菌に感染していることが分かった場合は、積極的に除菌することが勧められます。
具体的には、
①胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発が数%に減少します。
②ほとんどの胃過形成性ポリープは、除菌後、消失・縮小します。
③胃がんは発症を3分の1に減少させられることが示されています。
他に、機能性ディスペプジア、ピロリ感染に関連した鉄欠乏性貧血、ピロリ陽性慢性蕁麻疹なども改善する可能性が報告されています。
このように利点が多いですが、潰瘍の再発や胃がんの発症が0%になるわけではないことも注意が必要です。
除菌する治療薬は、胃酸を抑える薬と、2種類の抗生物質を組み合わせた薬剤を用い、1週間内服します。
1回目の除菌治療で90%以上の方が除菌できます。
除菌ができなかった人は、別の治療薬の組み合わせを用いて2回目の除菌を行うことができます。2回目の除菌までには99%以上が除菌に成功すると言われています。
除菌できたかどうかの判定は、除菌終了後から8週間程度経たないと正しく判定されないため、時期を見計らって行います。
検査方法は、上記のピロリ菌を調べる検査の中から適したものを用いて調べます。
日本では、除菌成功後の再感染率は年間1%未満と報告されています。
除菌成功後の再感染は極めて稀ですが、除菌に成功したら胃潰瘍や胃がんにならなくなるわけではありません。
ピロリ菌感染というリスクはなくなりますが、他にも老化や塩分過剰などのリスクも多数あります。
除菌成功後にも胃がんが発見されることがあるため、除菌に成功した後も定期的な胃がんのスクリーニング検査は必要になります。
また除菌成功後は、胃の萎縮が強い方や食道裂孔ヘルニアを合併している方は、除菌後の逆流性食道炎が出現することがありますが、潰瘍やがんのリスクを減らすというメリットはの方がかなり大きいと考えられます。