急性胃腸炎

急性胃腸炎(感染性胃腸炎)|原因・症状・検査・受診の目安

急性胃腸炎は、吐き気・嘔吐・下痢・腹痛・発熱などが突然あらわれる、胃や腸の急性の炎症です。その多くはノロウイルスやロタウイルスなどのウイルス感染によるもので、水分補給を中心とした対症療法で数日のうちに自然に回復します。一方で、細菌性腸炎(食中毒)や脱水の進行など、医療機関での治療が必要となる場合もあります。このページでは、消化器病専門医・内視鏡専門医の立場から、急性胃腸炎の原因、家庭での対処法、受診すべきサインについて解説します。

急性胃腸炎とは

急性胃腸炎とは、ウイルスや細菌などの病原体が胃や腸に感染することなどによって、吐き気・嘔吐・下痢・腹痛・発熱といった症状が急に起こる病気です。原因の大部分は感染によるもので、感染性胃腸炎とも呼ばれます。「お腹の風邪」と表現されることもあります。

典型的な経過では、まず吐き気・嘔吐で始まり、半日〜1日ほど遅れて下痢が出現します。嘔吐は1〜2日でおさまることが多く、下痢も多くは1週間以内に自然に軽快します。一年を通して起こりますが、ウイルス性は冬季(11月〜3月頃)に、細菌性は気温の高い夏季に多くみられます。

急性胃腸炎の主な原因

原因となる病原体は、大きくウイルス細菌に分けられます。外来で圧倒的に多いのはウイルス性です。

分類 主な病原体と特徴
ウイルス性
(冬に多い)
ノロウイルス:成人の感染性胃腸炎で最多。カキなどの二枚貝や、感染した人の手指・吐物を介して感染し、感染力が非常に強いのが特徴です。
ロタウイルス:乳幼児に多く、白っぽい水様便が特徴です(ワクチンで予防可能)。
そのほか、アデノウイルス、サポウイルスなど。
細菌性
(夏に多い)
カンピロバクター:細菌性腸炎で最多。加熱不十分な鶏肉(鶏刺し・たたきなど)が主な原因です。
サルモネラ:生卵・加熱不十分な卵料理や肉類など。
腸管出血性大腸菌(O157など):加熱不十分な牛肉など。激しい腹痛と血便が特徴で、重症化に注意が必要です。
腸炎ビブリオ:生の魚介類。
黄色ブドウ球菌:調理者の手指を介したおにぎり・お弁当など(毒素型。食後数時間で発症)。
その他 アニサキス(生の魚介類による激しい胃痛)、薬剤性(抗菌薬など)、暴飲暴食・アルコールによる急性胃炎 など

※ 鶏肉・牛肉・卵・二枚貝などを食べたあとの下痢や、海外渡航後の下痢では、細菌性腸炎の可能性を考えて診療します。受診の際は「いつ・何を食べたか」「周囲に同じ症状の方がいるか」をお伝えください。

 こんなときは早めの受診を(危険なサイン)
水分がほとんど取れない、尿が極端に減っている・ふらつく → 脱水の進行(とくに高齢の方・お子さま)
血便・粘血便がある、便に血が混じる → 細菌性腸炎(O157など)や他の大腸の病気の可能性
38℃以上の高熱強い腹痛が続く
吐いたものに血が混じる、黒っぽい(コーヒーかす様) → 吐血の可能性
嘔吐だけが続いて下痢がない、お腹が張って便もガスも出ない → 腸閉塞など他の病気の可能性
下痢や嘔吐が1週間以上続いている、症状が悪化してきている
急性胃腸炎の検査

急性胃腸炎の多くは、問診と診察で診断が可能であり、軽症であれば必ずしも検査は必要ありません。脱水の程度の評価や、細菌性腸炎・他の病気との区別が必要な場合に、次のような検査を行います。

血液検査 … 炎症の程度、脱水・電解質の状態、肝臓・腎臓の機能などを調べます
便の検査(便培養など) … 血便や高熱を伴う場合などに、原因となる細菌を調べます
腹部エコー(超音波)検査・腹部レントゲン … 虫垂炎・腸閉塞・胆嚢炎など、似た症状を起こす他の病気と区別します

また、下痢や腹痛が長引く場合や血便を伴う場合には、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)など他の病気が隠れていないかを確認するため、大腸カメラによる検査をお勧めすることがあります。

急性胃腸炎の治療

急性胃腸炎に対して、ウイルスを直接やっつける特効薬はありません。治療の基本は、失われた水分・塩分を補い、体力の回復を待つこと(対症療法)です。吐き気止めや整腸剤などで症状を和らげながら、自然な回復をサポートします。水分が取れないほど脱水が強い場合には、点滴による水分・電解質の補給を行います。

治療 内容
水分・塩分の補給 治療の基本です。経口補水液(OS-1など)を少量ずつこまめに。取れない場合は点滴を行います。
お薬による対症療法 吐き気止め(制吐薬)、整腸剤(ビフィズス菌・乳酸菌製剤など)を症状に応じて使用します。
抗菌薬(抗生剤) ウイルス性には無効であり、細菌性でも軽症〜中等症の多くは自然に軽快するため、原則として使用しません。高熱・血便を伴う重症例や、免疫力が低下している方など、必要な場合に限り使用します。
下痢止め(止痢薬) 下痢は病原体を体の外へ出す防御反応でもあるため、強い下痢止めの使用は慎重に判断します。とくに高熱・血便を伴う場合は使用しません。

※ 抗菌薬の不必要な使用は、薬剤耐性菌(抗菌薬が効かない菌)を増やす原因となるため、国の薬剤耐性(AMR)対策においても、市中の急性下痢症には抗菌薬を原則投与しないことが推奨されています。当院でもガイドラインに基づき、抗菌薬は必要な場合に限って使用しています。

ご家庭での過ごし方・食事のポイント
水分補給のコツ

嘔吐・下痢では、水分と塩分(電解質)が同時に失われます。水やお茶だけでは塩分を補えないため、経口補水液(OS-1など)での補給をお勧めします。手元にない場合はスポーツドリンクでも構いません。一度にたくさんではなく、少量ずつこまめにとるのが脱水予防のコツです。吐き気が強いときは、ひと口(スプーン1杯程度)から始め、吐かずに飲めることを確認しながら少しずつ量を増やしてください。

無理に食べる必要はありません。まずは水分補給を最優先にしてください
吐き気が落ち着いてきたら、おかゆ・うどん・すりおろしりんご・よく煮た野菜など、消化のよいものから少しずつ再開します
脂っこいもの、香辛料、アルコール、カフェイン、乳製品は、回復するまでしばらく控えましょう
入浴は、症状が落ち着いていれば短時間のシャワー程度に。家族内感染を防ぐため、症状のある方は最後に入りましょう
ご家族にうつさないために(感染予防)

ノロウイルスをはじめとする感染性胃腸炎は、感染力が非常に強く、家庭内で広がりやすい病気です。次の点に注意してください。

石けんと流水による手洗いが基本です。ノロウイルスにはアルコール消毒が効きにくいため、調理前・食事前・トイレの後は必ず流水で手を洗いましょう
吐物・便の処理は、使い捨て手袋・マスクを着け、ペーパータオルなどで静かに拭き取ります
拭き取ったあとは、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤の希釈液)で消毒します。汚れた衣類も同様に消毒するか、85℃以上の熱湯で1分以上の加熱を行いましょう
タオルや食器の共用は避けましょう
症状が治まったあとも、便には1週間以上ウイルスが排出されることがあります。手洗いはしばらく徹底してください
食中毒の予防

食中毒予防の三原則は「つけない・増やさない・やっつける」です。肉類(とくに鶏肉)は中心部までしっかり加熱する(中心温度75℃・1分以上が目安)、生肉を扱った調理器具・手指はよく洗う、カキなどの二枚貝は加熱用と生食用を区別する、調理後は早めに食べる、といった点に注意しましょう。

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よくあるご質問(FAQ)
Q1.急性胃腸炎はどのくらいで治りますか?
ウイルス性の場合、嘔吐は1〜2日、下痢を含めた全体の症状は数日〜1週間程度で自然に軽快することがほとんどです。1週間を過ぎても改善しない場合や、症状が悪化してくる場合は、他の病気の可能性も考えて受診をお勧めします。
Q2.抗生物質(抗菌薬)を出してもらえないのですか?
急性胃腸炎の多くはウイルス性で、抗菌薬は効果がありません。細菌性であっても軽症〜中等症の多くは自然に軽快するため、ガイドライン上も抗菌薬は原則使用しないこととされています。不必要な抗菌薬は腸内細菌のバランスを崩したり、薬剤耐性菌を増やしたりするデメリットがあります。高熱や血便を伴う重症例など、必要と判断した場合には適切に使用しますのでご安心ください。
Q3.市販の下痢止めを飲んでもよいですか?
下痢は細菌やウイルスを体の外に出す防御反応でもあるため、感染性胃腸炎が疑われる時期に強い下痢止めを自己判断で使うことはお勧めしません。とくに発熱や血便を伴う場合は使用しないでください。整腸剤(ビフィズス菌・乳酸菌製剤など)は使用していただいて構いません。
Q4.仕事や学校はいつから行ってよいですか?
感染性胃腸炎には法律上の一律の出席停止期間はなく、嘔吐・下痢が治まり、全身状態が回復すれば登校・出勤は可能です。ただし症状が消えたあとも便にはしばらくウイルスが排出されるため、手洗いの徹底を続けてください。飲食物を扱うお仕事の方は、職場の規定(検便での陰性確認など)に従ってください。学校・園や職場で証明書類が必要な場合はご相談ください。
Q5.家族がノロウイルスにかかりました。消毒はどうすればよいですか?
ノロウイルスにはアルコール消毒が効きにくいため、石けんと流水による手洗いが基本です。吐物や便の処理は使い捨て手袋・マスクを着けて行い、床やドアノブなどは次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤の希釈液)で消毒してください。汚れた衣類は塩素系漂白剤につけ置きするか、85℃以上の熱湯で1分以上加熱します。タオルの共用は避けましょう。
Q6.胃腸炎が治ったあとも、下痢や腹痛がだらだら続いています。
感染性胃腸炎のあとに、腸が敏感になって下痢や腹痛が長引くことがあり、感染後過敏性腸症候群(IBS)と呼ばれます。一方で、長引く下痢の背景に大腸がんや炎症性腸疾患などが隠れていることもあるため、4週間以上続く場合や血便・体重減少を伴う場合は、大腸カメラなどによる検査をお勧めします。お気軽にご相談ください。
この記事の監修・執筆者
前川内科 院長:前川 直志(まえがわ ただし)
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 内視鏡専門医
日本肝臓学会認定 肝臓専門医
日本内科学会認定 総合内科専門医

三重県津市にて、地域に根差した消化器内科・内視鏡診療を行っています。急性胃腸炎などの消化器症状について、ガイドラインに基づいた診療を心がけています。

嘔吐・下痢・腹痛など、急性胃腸炎の症状でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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