炎症性症疾患

 

炎症性腸疾患
(潰瘍性大腸炎・クローン病)について

消化器病・内視鏡の専門医が、原因・症状・診断・治療・日常生活のポイントをわかりやすく解説します。

⚠ 下痢・血便・腹痛などの腸の症状が続く方へ

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)の可能性があります。
症状が続く場合は早めにご受診ください。

1. 炎症性腸疾患(IBD)とは

炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)とは、消化管に原因不明の慢性炎症が起こり、粘膜にびらんや潰瘍ができる病気の総称です。

代表的な疾患は潰瘍性大腸炎(UC)クローン病(CD)の2つです。どちらも症状の悪化(再燃)と改善(寛解)をくり返す慢性疾患で、主に若い世代に発症します。

日本では潰瘍性大腸炎の患者数は約22万人と推計されており(難治性炎症性腸管障害調査研究班)、食生活の欧米化とともに増加傾向にあります。発症年齢のピークは男性で20〜24歳、女性で25〜29歳であり、働き盛りの若い世代に多いのが特徴です。

原因はまだ完全には解明されていませんが、腸内細菌・免疫機能の異常・遺伝的素因・環境因子などが複合的に関与していると考えられています。

当ページでは、より患者数の多い潰瘍性大腸炎を中心に解説します。クローン病についても概要を記載しています。

2. 潰瘍性大腸炎とクローン病のちがい

2つの疾患は似ていますが、炎症が起きる場所・広がり方・治療法などが異なります。

潰瘍性大腸炎(UC) クローン病(CD)
炎症の場所 大腸(結腸・直腸)のみ 口から肛門まで消化管全体(小腸・大腸が多い)
炎症の広がり方 粘膜表面に連続性に広がる 腸壁の全層性・飛び石状に広がる
主な症状 血便・下痢・腹痛・残便感 腹痛・下痢・体重減少・発熱(血便は少ない)
好発年齢 20〜30歳代が多い(高齢発症もある) 10〜20歳代が多い
男女比 ほぼ同等(男女差なし) 男性にやや多い(男女比 約2:1)
指定難病 指定難病97号 指定難病96号
3. こんな症状はありませんか?

以下のような症状が続く場合は、炎症性腸疾患の可能性があります。お早めにご相談ください。

● 潰瘍性大腸炎の主な症状

🔴 便に血が混じる(血便・粘血便)

🔴 下痢が長く続く(1日数回〜十数回)

🔴 腹痛(特に排便前に下腹部が痛む)

🔴 残便感・排便後もすっきりしない

🔴 発熱・倦怠感(重症例)

🔴 体重が減ってきた

● クローン病の主な症状

🟡 慢性的な腹痛(特に右下腹部)

🟡 下痢(血便は少なめ)

🟡 体重減少・栄養不良

🟡 発熱・倦怠感

🟡 肛門周囲の病変(痔瘻・裂肛)

⚠ 以下の症状があるときはすぐに受診を

大量の血便・激しい腹痛・38℃以上の発熱が続く場合は、潰瘍性大腸炎の重症発作だけでなく、感染性腸炎・虚血性腸炎・大腸がんなど、他の重篤な腸疾患の可能性もあります。自己判断せず、すみやかにご受診ください。

4. 原因・なりやすい人

潰瘍性大腸炎の原因はまだ完全には解明されていません。現在、以下のような要因の組み合わせが発症に関与していると考えられています。

🧬 遺伝的要因

家族内での発症も見られ、遺伝的な素因が関与していると考えられています。ただし、家族に患者がいても必ずしも発症するわけではありません。

🦠 腸内細菌・免疫の異常

腸内に生息する細菌に対して免疫が過剰に反応し、腸の粘膜を傷つけてしまうと考えられています。免疫調節機能の異常が関与している可能性が示唆されています。

🍔 環境・食生活の変化

欧米型の高脂肪・低食物繊維の食生活との関連が指摘されています。日本でも食の欧米化とともに患者数が増加しています。ただし、特定の食品が直接の原因となるわけではありません。

😤 ストレス・精神的要因

直接の原因ではありませんが、強いストレスや過労が再燃(症状の悪化)の引き金になることがあります。

発症しやすい方の特徴として、20〜30歳代・家族歴あり・食生活の乱れなどが挙げられますが、これらがない方でも発症することがあります。

5. 診断の流れ(大腸カメラが重要)

潰瘍性大腸炎の確定診断には、大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)が不可欠です。症状と血液検査だけでは診断できず、大腸の内腔を直接観察して組織を採取(生検)する必要があります。

問診・症状確認

いつから・どんな症状があるか、血便の有無、体重の変化、家族歴などをお聞きします。過去の大腸カメラや検査歴もお知らせください。

血液検査・便検査

CRP・血沈・血算などの炎症マーカー、貧血の確認、便潜血などを調べます。感染性腸炎(細菌・ウイルス性)との鑑別にも必要な検査です。

大腸カメラ(最重要)

大腸の粘膜を直接観察し、炎症の範囲・程度を確認します。粘膜から組織を採取(生検)して顕微鏡で調べ、潰瘍性大腸炎かどうか・クローン病・感染症との鑑別を行います。確定診断に必須の検査です。

⚠ 血便・下痢が続く場合、大腸がんの鑑別も重要です。自己判断せず、早めに大腸カメラを受けることをお勧めします。

病変範囲・重症度の評価

直腸炎型・左側大腸炎型・全大腸炎型などの病変範囲と、軽症・中等症・重症の重症度を評価します。これにより治療方針が決まります。

6. 治療方針

潰瘍性大腸炎の治療目標は、症状を抑えて寛解を導入し、再燃なく寛解を維持することです。薬の中断は再燃につながるため、症状がない時期も服薬を継続することが大切です。

活動期の重症度評価:Mayo Score(メイヨースコア)

治療方針を決めるには重症度の評価が必要です。日本・海外ともに広く用いられているのが Mayo Score(メイヨースコア)です。排便回数・血便の程度・内視鏡所見・医師の全般的評価の4項目(各0〜3点、計0〜12点)で重症度を判定します。

スコア 0点(正常) 1点(軽度) 2点(中等度) 3点(重度)
排便回数 正常 1〜2回増加 3〜4回増加 5回以上増加
血便 なし 少量(半数未満) ほぼ常に混入 ほぼ血液のみ
内視鏡所見 正常〜不活動 軽度(脆弱性) 中等度(びらん) 重度(自然出血・潰瘍)
医師の全般評価 正常 軽症 中等症 重症
排便回数
0点(正常)
正常
1点(軽度)
1〜2回増加
2点(中等度)
3〜4回増加
3点(重度)
5回以上増加
血便
0点(正常)
なし
1点(軽度)
少量(半数未満)
2点(中等度)
ほぼ常に混入
3点(重度)
ほぼ血液のみ
内視鏡所見
0点(正常)
正常〜不活動
1点(軽度)
軽度(脆弱性)
2点(中等度)
中等度(びらん)
3点(重度)
重度(自然出血・潰瘍)
医師の全般評価
0点(正常)
正常
1点(軽度)
軽症
2点(中等度)
中等症
3点(重度)
重症

合計スコア:0〜2点=寛解、3〜5点=軽症、6〜10点=中等症、11〜12点=重症(Mayo Score 全項目版の目安)

主な治療薬

💊 5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸製剤)

潰瘍性大腸炎治療の基本となる薬です。炎症を抑える作用があり、軽症〜中等症の寛解導入・寛解維持の両方に使われます。内服薬のほか、坐剤・注腸(ちょくちょう)製剤もあり、病変の部位や範囲に応じて使い分けます。
長期服用でも比較的安全性が高く、大腸がんのリスク低減にも役立つことが知られています(日本消化器病学会ガイドライン)。

💊 ステロイド製剤

5-ASA製剤で効果不十分な場合や中等症〜重症例に使用し、短期間で炎症を抑えます。長期使用は副作用(骨粗鬆症・感染症リスク増加など)があるため、症状が改善したら漸減・中止を目指します。維持療法には使用しません。

💊 免疫調節薬(チオプリン製剤)

ステロイド依存性の方やステロイドを減量するために使用します。効果が出るまで数ヶ月かかることがあります。服用開始後早期に重度の白血球減少・脱毛が生じることがあり、これはNUDT15遺伝子の体質と関連することが明らかになっています。2019年2月より開始前のNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初めて使用する際には同検査を行って副作用リスクを確認することが強く推奨されています(日本炎症性腸疾患学会)。

💊 生物学的製剤・JAK阻害薬(専門的治療)

5-ASA製剤やステロイドで効果が不十分な中等症〜重症例に使用する専門的な治療薬です。近年、新薬の承認が相次いでいます。

抗TNFα抗体:インフリキシマブ・アダリムマブ・ゴリムマブ
インテグリン阻害薬:ベドリズマブ、カロテグラストメチル
IL阻害薬:ウステキヌマブ(IL-12/23)、ミリキズマブ・リサンキズマブ(IL-23)、グセルクマブ(IL-23、2025年3月承認)
JAK阻害薬(経口):トファシチニブ・フィルゴチニブ・ウパダシチニブ

これらは高度専門施設での導入・管理が必要なため、必要に応じて専門病院へご紹介します。当院では治療が安定した後の維持・フォロー(専門病院からの逆紹介)にも対応しています。

🩸 血球成分除去療法(CAP/LCAP)

炎症の原因となる白血球を体外で除去する治療法で、妊婦など薬物療法に制限がある方にも使用できます。点滴ラインを確保して機械に血液を通す治療で、専門施設での実施が必要です。

🏥 外科手術

薬物療法で症状がコントロールできない重症例や、大腸がんが発生した場合は大腸全摘術が必要になることがあります。一時的に人工肛門を作ることが多いですが、永久的に人工肛門になる方はごくわずかです。

📌 当院でできること:軽症〜中等症の診断・治療・経過観察を行います。中等症〜重症例や生物学的製剤が必要と判断された場合は、専門病院(IBD専門外来)へご紹介します。連携先からの逆紹介(専門病院での治療が安定した後の維持・フォロー)も承っています。

7. 難病医療費助成制度について

潰瘍性大腸炎とクローン病は、いずれも国の指定難病に認定されており、一定の条件を満たした方は医療費の助成が受けられます。

📋 難病医療費助成制度のポイント

・自己負担割合が2割に軽減され、月額の上限が設けられます。

・軽症例は助成対象外ですが、高額な治療が必要な場合などは対象となる場合があります。

・申請先は三重県(津市保健所)となります。申請に必要な診断書(臨床調査個人票)は当院で作成できます。

・更新手続きが年1回必要です(大腸カメラなどの検査結果が必要な場合があります)。

※ 制度の詳細・最新の認定基準は難病情報センター(潰瘍性大腸炎)または三重県の難病医療費助成制度ページでご確認ください。

8. 日常生活で気をつけること

潰瘍性大腸炎は慢性疾患ですが、日常生活の工夫と薬の継続で、多くの方が普通の生活を送っています。以下の点に気をつけましょう。

🍽️ 食事

活動期(症状がある時期):消化の良い食事を心がけ、脂肪分の多い食品・辛いもの・アルコール・生野菜・乳製品などを控えめにしましょう。
寛解期(症状がない時期):極端な食事制限は不要です。バランスのよい食事が基本です。自分が食べると症状が悪化すると感じるものは避け、食事日記をつけると参考になります。

😴 ストレス・睡眠

ストレスや睡眠不足は再燃(症状の悪化)の引き金になることがあります。無理のない生活リズムを意識し、疲労がたまらないよう心がけましょう。

🚭 禁煙について

潰瘍性大腸炎では、喫煙者はむしろ発症リスクが低いという特異な報告があります。しかし禁煙は全身の健康・大腸がん予防・心血管疾患予防の観点から推奨されます。服薬中の方は急激な禁煙で症状が変化することがあるため、担当医にご相談ください。

💊 薬の自己中断はしない

症状がなくなっても薬を自己判断で中断すると、高い確率で再燃します。「調子が良いから飲まなくていいか」と思うのは危険です。薬の変更・中止は必ず医師に相談してください。

🏃 運動・仕事

寛解期(症状が落ち着いている時期)は適度な運動や通常の社会生活が可能です。疲労がたまりすぎない範囲で生活することが大切です。

🔬 定期的な大腸カメラ(サーベイランス)

潰瘍性大腸炎は長期的な炎症が続くと大腸がんのリスクが高まります。炎症のコントロールができていても、発症から8年以上・全大腸炎型の方は定期的な大腸カメラによるがんサーベイランスが推奨されています(炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドライン2024)。医師と相談して検査間隔を決めましょう。

9. よくある質問(FAQ)
A現時点では根本的な原因が不明なため、薬で完全に「完治」させることは一般的には難しい病気です。ただし、適切な治療を続けることで症状のない状態(寛解)を長期間維持できる方は多くいます。症状がない時期でも薬を継続することが再燃(症状の悪化)を防ぐためにとても重要です。
A過敏性腸症候群(IBS)は腸に炎症や潰瘍がなく、ストレスや自律神経の乱れが原因で起こる「機能的な」腸の不調です。一方、潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に実際に炎症や潰瘍が生じる「器質的な」病気で、血便が特徴的な症状です。症状だけでは区別が難しいこともあるため、血便や長引く下痢がある場合は大腸カメラによる検査で確認することが重要です。
A遺伝的な要因が関与していることは知られており、家族に潰瘍性大腸炎の方がいる場合はリスクがやや高くなります。しかし必ずしも遺伝するわけではなく、患者さんの多くに家族歴はありません。「親が潰瘍性大腸炎だから子どもも必ずなる」というものではありませんが、血便などの症状が出た場合は早めに受診されることをお勧めします。
A症状がなくなっても薬を自己判断で中断すると再燃するリスクが高まります。5-ASA製剤などの維持療法は長期間継続することが推奨されています。薬の変更・減量・中止については、必ず担当医に相談のうえで行ってください。「症状がないから飲まなくていいか」という考えが再燃につながることが多いため、ご注意ください。
A活動期(症状がある時期)は消化の良い食事を心がけ、脂肪分の多い食品・香辛料・アルコール・生野菜・乳製品などを控えることが勧められます。寛解期(症状がない時期)はバランスのよい食事が基本で、極端な制限は不要です。「これを食べると調子が悪くなる」という食品があれば避けるようにしましょう。個人差がありますので、不安な点はかかりつけ医にご相談ください。
A長期罹患・病変範囲が広い・炎症のコントロールが不十分な場合、大腸がんのリスクが一般の方より高まることが知られています。そのため定期的な大腸カメラによるサーベイランス検査が推奨されています(炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドライン2024)。適切な治療で炎症をコントロールし続けることが、がんリスクの低減にもつながります。
A寛解期(症状が安定している時期)に妊娠することが望ましく、多くの方が妊娠・出産されています。ただし、一部の薬は妊娠中の使用を慎重に検討する必要があります。妊娠を希望される場合は事前に担当医にご相談いただき、薬の調整などを行うことが大切です。
A薬物療法で症状をコントロールできない重症例や、大腸がんが発生した場合などは外科手術(大腸全摘術)が必要になることがあります。手術後は一時的に人工肛門を作ることが多いですが、永久的に人工肛門になる方はごくわずかです。手術後も多くの方は社会復帰できています。
A「血便 = 痔」と自己判断するのは危険です。痔による出血は肛門から少量・鮮血が便の表面や紙につく形が多いですが、粘液が混じる血便・下痢を伴う血便・繰り返す血便は潰瘍性大腸炎や大腸がんなどを疑うサインです。自己判断せず、一度大腸カメラで確認されることをお勧めします。
A寛解期(症状が落ち着いている時期)は多くの方が通常通りに働いています。活動期(症状が出ている時期)は体調に合わせた無理のない生活が大切です。職場への配慮が必要な場合は、診断書・意見書の作成も対応しておりますのでご相談ください。
10. 関連ページ

診断・治療に関連するページもあわせてご参照ください。

この記事の監修・執筆者

前川内科 院長:前川 直志(まえがわ ただし)

日本消化器病学会認定 消化器病専門医

日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医

三重県津市にて、地域に根差した消化器内科・内視鏡診療を行っています。

参考:日本消化器病学会「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン」/炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドライン2024年版/難病情報センター(2026年6月時点)

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